2009年09月17日

Kakiiin

今日は丸々ラジオの話題。TBSラジオにKakiiinという番組がある。これは“70年代〜90年代の名曲、ヒット曲を中心にお送りする、大人のための音楽番組”というキャッチコピーの、現在30代〜40代のリスナーに焦点を当てたプログラムで、自分などもまさにその世代にあたるので、移動時間などにたまたまやっていると954kHzにチューニングしたりする。

この番組、ものすごく面白いという訳ではないのだが、ついつい聴いてしまうのはオールディーズ・ファンが好むような音楽が時折かかるからで、9月14日の放送ではジョニー・ティロットソン「ポエトリー・イン・モーション」が不意にスピーカーから流れ出した。この曲がAMラジオで放送されること自体はそれほど特別な出来事ではないと思う。でも、レニー・クラヴィッツやレベッカなどとともにこの曲が選曲されるのは、なかなかありそうもないことで、心の中で「エーッ!」と驚いてしまう。

この日は杉真理「内気なジュリエット」もかかった。「バカンスはいつも雨」以外の彼の曲がかかるのは、やはり珍しい。Kakiiin Selectというコーナーでは、ゲストのレコード番長(盤長って感じ?)須永辰緒が、浅丘ルリ子「シャム猫を抱いて」を選曲した。「内気なジュリエット」と「シャム猫を抱いて」は、その曲が収録されたアルバムの中古レコード屋での店頭価格に100倍以上の開きがあるが、この2曲がAMラジオでかかる確率に大差はないように思えた。「内気なジュリエット」が流れた後でDJの駒田健吾は、石川さゆりが歌うサントリーのCMソング“ウイスキーが、お好きでしょ”も杉真理の仕事であることを付け加えた。この抜かりないフォロー、なかなか出来ることではないと思う。駒田健吾はさらに「今いちばん欲しいアルバムが『ナイアガラ・トライアングルvol.2』なんですよ」と語った。やはり彼の仕業ではない。彼のフェイヴァリットはBOØWYなのだ。イヤフォン越しに彼へと指示を出している誰か。首謀者は裏方のスタッフの中にいる。

かつてこんな放送に意表を突かれたこともある。バート・バカラックの特集で、B.J.トーマス「雨にぬれても」などがかかるごく普通のプログラムだったのだが、ひとつだけ当たり前ではないことがあった。バート・バカラックの父親も実はバート・バカラックという名前で、スペルが一文字違うという事実にふれた後、なぜそうなったのかという、相当なバカラック・マニアでもなかなか知り得ないようなエピソードを紹介したのである(今回その話はしない)。その瞬間、胸の奥で「カキーン」と音がして、僕の心は高く遠く場外へと連れ去られた。

7月13日の放送は、マイケル・ジャクソンの追悼もからめたクインシー・ジョーンズの特集だった。マイケル・ジャクソンは「ロック・ウィズ・ユー」が選曲されたが、もう1曲かかったのがレスリー・ゴーア「イッツ・マイ・パーティ」だった。「イッツ・マイ・パーティ」は、クインシー・ジョーンズにとって初めての大きなヒットで、忘れられない大切な曲であるということであった。多くのポップス・ファンは、正式な音楽教育を受けたジャズ畑出身のクインシー・ジョーンズが制作したレスリー・ゴーアのヒット曲に対して、どうせ片手間にやった仕事に違いないと、どこかで思ったりしていないだろうか。ボブ・クリューが手がけた「カリフォルニア・ナイツ」の方がいいだなんて、わかったような口をきいたりしがちではないだろうか。僕はそうだった。でも、この放送を聴いて反省した。やっぱり「イッツ・マイ・パーティ」あってのレスリー・ゴーアだと思う。全米1位は伊達ではない。また、クインシー・ジョーンズの代表的な仕事として、レスリー・ゴーアを取り上げること自体、稀なことだとも思う。これもまた、なかなか出来ることではない。

マイケル・ジャクソンの死後、NHKのニュースをはじめ、各種メディアが彼についてふれる際に、必ずといっていいほど“キング・オブ・ポップ”という冠がつけられるようになった。この“キング・オブ・ポップ”というフレーズを聞かされる度に、どこか割り切れない気持ちが残る。でも「イッツ・マイ・パーティ」と「ロック・ウィズ・ユー」という、全米1位を獲得した2曲を並べることで垣間見える何かがあるならば、“キング・オブ・ポップ”も悪くないか、と思わなくもない。ラジオにはまだ可能性が残されている。そのことを、Kakiiinを通して再確認させられた。



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posted by 水上 徹 at 23:05| 音楽 | 更新情報をチェックする