まず、フランス・ギャルの日本語版は「夢みるシャンソン人形」だけではないことがわかった。「すてきな王子様(Un Prince Charmant)」が、来日記念盤として日本語版が発売されていたのである。ジャケットに書かれた曲名の“す”の字のクルンとした部分がハート型になっていてなんともカワユイ。彼女の日本語はさらに達者になっていて、そのためか歌謡曲度もアップしている。僕は70年代の小林麻美を少し思い出した。(訳詞ではなく)作詞は安井かずみ。
ジニー・アーネル「ダム・ヘッド」日本語版は、昨年イギリスで発売されたCD『MEET GINNY ARNELL』のシークレット・トラックとして入っていた。レコード・コレクターズ誌リイシュー・ベストのオールディーズ部門で1位を獲ったCDぐらい買っておけということか。日本語はあまり上手くはないが、そこがいい。脳の一部がとろけるような強烈な味わいがある。このCDを買った多くのひとが思うのだろうが、テディ・ランダッツオ制作のシングル曲がやはり素晴らしい。同時期のロイヤレッツと同じサウンド。レーベルも同じMGMだし。テディ・ランダッツオの音楽を世界一愛しているのは、ひょっとしたら日本人なのではないだろうかと思うことがある。これはひとえに山下達郎という人の耳のよさ、洗練された趣味性に端を発しているのだろう。また欲しいレコードが増えてしまった。
そして、杉真理が書いたサントリー・ウイスキーCM曲「ウイスキーが、お好きでしょ」の、なんとセルフ・カヴァー・ヴァージョンなどというものが登場してしまった。これは、彼の『LOVE MIX』リマスター盤のボーナス・トラックとして収録されたものなのだが、驚いたのは、本作のボーナス・トラックはすべて今回のリイシューのために新録されたものだということ。新しい録音が5曲も入った再発盤なんて、僕はきいたことがない。杉さんのこんな気前のよさ、曲を出し惜しみしない姿勢に感動した。アルバム本編の方も本当に素晴らしいもので、発売当時「Kit Cat」のCM曲だった「雨の日はきっと」の甘酸っぱいメロディを耳にする度に、杉真理という存在の貴重さ、かけがえのなさを感じずにはいられない。杉真理のアルバムは、結局これですべてリイシューされてしまった。しかも、すべての曲が丁寧にリマスターされ、ボーナス・トラックがどっさり追加されて、詳細なライナーノーツを添えられて、紙ジャケットに収められているのである。この一連のプロジェクトを粛々と実行し貫徹した、本人およびスタッフの熱意、そして大人の行動力をおもう時、ちょっと涙が出そうになる。もちろんCDの再発はビジネスである。でも効率と利幅を考えるならば、ボーナス・トラックのために5曲も新録するなんてありえないのではないだろうか。こういう仕事を前にすると、音楽ライターなんてその場の思いつきを適当に書き散らかしているだけのように思えてくる。ともあれ、杉真理のアルバム『POP MUSIC』『LOVE MIX』はおすすめです。